インタビュー Vol.84
 

教養に裏づけされたジャンルを超えた音楽センス

園田 涼

 

 

ソノダバンド結成から今年で園田さんの音楽活動10周年ですね

そうですね、意識はしていましたし、10周年記念コンサートみたいなものができたらいいなと思っていましたが、いまはコロナ問題がありますので、判断の難しいところですね。
 

音楽に夢中になるきっかけは

両親共に音楽好きで、特に母はショッキング・ブルーの『Venus』なんかの世代なんですが、ロックが大好きで、僕が小学生になった頃に「まずはこれを聴きなさい」とビートルズのBOX セットを買ってきてくれました。中学生になる頃には「そろそろハードロックを聴きなさい」と、今度はディープ・パープルのCDを買ってきてくれて。一方、父はタンゴやラテンなどのワールド・ミュージックや歌謡曲が好きだったので、結果としてバランス良く、色んなジャンルの音楽を両親から教えてもらったことになります。
子供の頃から、家の中では常に音楽が流れているような恵まれた環境でした。それに、クラシックのピアニストと違って「練習しろ、練習しろ!」と叱られた記憶もないので、音楽は楽しいものだという認識で、自由に伸び伸びと鍵盤を弾いていました。親はまさか僕がピアニストになるなんて思いもしていなかったみたいですが。
ただ勉強に関してはかなりのスパルタ教育を父に受けまして。4歳くらいの時に遊園地に連れて行ってもらったのですが、入る前に「九九を全部言えないと入れてあげない」と言われたことが記憶に残っています。結局七の段あたりでつまずいて言えなくなって泣き出したら、苦笑いしながら入れてくれましたが。とにかく勉強に関しては、とても厳しい父でしたね。

 

小曽根真さんと葉加瀬太郎さんが大好きだったそうで

中学・高校時代、本当によくお二人の音楽を聴いていました。小曽根さんは僕と同じ神戸出身の方で、僕が言うまでもなくピアノが素晴らしく上手い。コンサートのMCでも親しみやすいユーモアを織り交ぜて話されますし、音楽に関して言えばちょっとしたフレーズでも普通に終わらせない、聴く人をはっとさせるような細やかな配慮が素晴らしくて、小曽根さんのピアノを聴いていると本当にワクワクします。僕が音楽界にデビューしたときに、激励として、本当に素晴らしい言葉を教えてくださいました。もう亡くなってしまったのですが、バークリー音大の教授だったハーブ・ポメロイ先生の言葉で、穐吉敏子さんも、渡辺貞夫さんも、小曽根さんも彼にアレンジを習ったそうです。
 
When you walk into a gig, (仕事場に入って行く時)
You first walk in as a human spirit, (人間の魂として入って行け)
Second, you become a musician, (そして音楽家になる)
And then you finally become a pianist. (そしてそれからピアニストとなる)
 
この言葉は、今に至るまでずっと心の奥底にしまい込んで大切にしています。
 
葉加瀬太郎さんは、僕が中学生の頃に僕の住んでいた田舎町まで演奏にいらしたのですが、葉加瀬太郎というアーティストを聴きに2,000人が集まるというのが衝撃でした。この街、こんなに人が住んでたんだ…と思ったくらいで。今になってより強く思いますが、日本のどの街に行ってもホールがちゃんと埋まるというのは本当に凄いことです。音楽に関して言えば、インストでこれだけ歌モノに近い感覚で聴ける音楽を僕はそれまで知らなかったし、あの日のコンサートで自分が受けた衝撃は、20年くらい前の話なのに今でもはっきり思い出せます。ソノダバンドでデビューしたときの僕の夢の一つが「日本武道館で演奏してみたい」だったのですが、それよりも、今はどの街に行っても園田くんの音楽が聴きたいと言ってくださる方がたくさん増えてくれたらいいなと思っています。太郎さんのお陰で、それがずっと目標になっていますね。
 

園田さんは灘中、灘高、東大と超難関を突破してミュージシャンになったという異色の経歴です。東大には「ジャズ・ジャンク・ワークショップ」というビッグバンドがありますが、ビッグバンドには興味はありませんでしたか

ジャズ研にはよく顔を出していました。ジャズ・ジャンクは大学2年生のときにゲスト・ソリストとして呼んでもらって、チック・コリアの『ラ・フィエスタ』を弾かせてもらった記憶がありますね。昨年、八代亜紀さんのコンサートでビッグバンドのアレンジをさせてもらったことがきっかけで、改めてビッグバンドに興味を持ち始めています。

 

2010年「ソノダバンド」(6人編成)から、2017年10月に「ソノダオーケストラ」(13人編成)になってからの意識の違いは

ソノダバンドはデビューしてから4年か5年間くらい活動したのですが、ヴァイオリンとチェロの子は中学時代からの後輩です。高校3年の文化祭で、ソノダバンドに近い編成で演奏をしたのですが、音楽室に人が入りきらないくらいの大盛況で、それに味を占めて大学で一緒にバンドを組もうよと約束していました。ベース、ドラム、ギターは大学の色々なバンドサークルに片っ端から顔を出して上手いメンバーを集めました。メンバー全員が東大生バンドということで、デビューの時にはメディアなどでもセンセーショナルに取り上げていただきました。レコード会社のスタッフに「新人バンドがデビューしたくらいで、こんなにテレビに出まくれることなんてまずないよ」と言われたことを覚えています。
ソノダバンドは僕の人生においても大きな意味を持っていたと今も思います。メンバーの6人中4人は音楽からは離れちゃいましたが、今でも交流はありますね。
 

ソノダオーケストラになって、人数が多くなった分、譜面を書く作業が大変になりましたか。

もちろんそれはそうです。でも、そんなことは言ってられません(笑)。それくらいにオーケストラというのは魅力的です。
由紀さおりさんの音楽番組の音楽監督をここ数年やらせていただいているのですが、その番組が始まる前に由紀さんにお食事に連れて行っていただいて、そこでアレンジャーの大御所の先生方のお話をたくさん聴かせていただきました。「今の若手にはまともなスコアを書ける人が本当に少ない。あなたは前田憲男先生を目指さなければダメよ!」と言われまして。由紀さんからそんな熱い言葉を頂いたら「はい、わかりました!!」と言うしかないですよね(笑)。
今の音楽番組は昔のようなフルバンドでの演奏がなかなか無いので、ソノダオーケストラは自分自身にとっての作曲、編曲の壮大な実験の場という意識もあります。素晴らしい若手ミュージシャンに力を貸してもらいながら、自分のアレンジと向き合っていこうと思っています。アレンジャーの先輩方は本当に個性豊かで面白い方が多いですね。面白いエピソードもたくさんあって、例えば…つい最近お亡くなりになってしまいましたが、服部克久先生はご年配になられてからパソコンで譜面を書かれるようになって、それから譜面が細かくなったとお聞きしています(笑)。かたやボブ佐久間さんはアレンジャーの気持ちを伝えるために今でも手書きの譜面にこだわられているそうです。そんな風にして今も素晴らしいアレンジャーの大先輩方から色々と学ばせていただいています。僕はいま30代で、まだ若手と言えるのかもしれませんが、先輩方が僕にそうしてくださったように、これから僕もまた下の世代にバトンをつないでいかなくては、という意識が芽生え始めています。

  

園田さんの生み出す音楽のビジョンとは

ソノダバンドはヴォーカリストのいないインストバンドだったので、今でもインストは大好きです。いい意味で制約がなくて、自由に演奏できて、自分が表現したいことも言いやすいので。歌モノの作り方は歌手によって様々です。例えばアッキー(中川晃教)さんとリハーサルをしていると、僕はアレンジャーとしてどうしても音楽を綺麗に整える方向に行きがちなのですが、アッキーさんは感性の人なので、そこから敢えて踏み外すようなチャレンジをしようとしたりして、時々意見がぶつかったりします。でもこういうぶつかりあい、話し合いがあるからこそ、本番でお客さんに感動してもらえるような、良い音楽を目指せるのだと思います。
  

先月の明治座『ミュージカル・チェーザレ 破壊の創造者』コンサートの中で音楽監督兼アレンジャーが世界史を語るという発想も型破りでユニークな演出でした。

そうなんですよー。ゲネプロの時にアッキーさんが「それではここで、園田さんに世界史を語ってもらうので明日までに考えてきてくださいー!」と言われて(笑)。3回公演とも、「園田先生の世界史講座」をやる羽目になってしまいました(笑)。僕も世界史オタクぶりに火がついて、中世ヨーロッパが舞台のミュージカルなのに、3回目の講座ではフランス革命くらいまで行ってしまいました(笑)。
 

ミュージカル曲のお仕事も増えていらっしゃるように思いますが

そうですね、本当にこれもご縁ですね。いちばん最初にミュージカル界とのご縁をいただいたのは、石井一孝さんのコンサートでシンセサイザーを弾いたことだったのですが、その時にゲストで出演されていたのがアッキーさんで。その時は2曲しか歌われなかったこともあり、特にゆっくり話もしなかったのですが、あれからまた僕の世界が広がりました。色々と輪が広がり、一つ何かお仕事をやるととまたそこから出会いが繋がって、どんどん輪が大きくなっていく。とても幸せなことだと思っています。

 

今後の目標は

先日やった世界史講座も楽しかったですし、文章を書くことも好きだし、とにかく人間の営み全てに興味があります。「園田って何が本職なの?」と言われるくらい、「今まで経験してきたことを何でも仕事にしてやる!」くらいの気持ちでいます。でももちろん根っこは音楽なので、そうした経験をまた音楽に戻していきたいです。
キース・ジャレットが「音楽家にとって大事なことは、音楽以外の全てだ」と言っているのですが、この言葉に出会ったとき「なるほど!」と、合点がいったような感覚がありました。僕も僕なりにこの言葉を体現していけたらいいなと思っています。
 

ソノティという愛称で親しまれている園田さんとの出会いは2016年の中川晃教15周年記念コンサートのフルオーケストラとの共演でした。
園田さんは音楽だけではなく、あらゆる知識とユーモアをご自分の生み出す音楽に生かし、独自の世界観をクリエイトするその技術は、時々配信されるYouTubeの『SONO TV』やツイキャスなどでのライブ配信で毎回リスナーの興味をそそる趣向で楽しませてくれます。ファン・サービスが素晴らしく、リクエスト曲を即興で演奏するスタイルも定着して、クラシック、JAZZ、J-POP、ROCKからマイケル・ジャクソンやミュージカル曲に至るまでその才能には目を見張る思いです。さらに驚くのは、音楽より世界史が大好きとおっしゃっていましたが、ルネサンス時代の歴史を朗々と語る姿はまるで池上彰さんかと思うほど。音楽的トーク力はポスト清塚信也さんのよう。広く深い知識量でこれからどんなふうに音楽に栄養を与え、飛躍していくのか、今いちばんカッコよく輝いている園田さんに目が離せません!!その才能をまだ見ぬ人は、元気になるし、笑っちゃうので、@sonoteeチャンネルにぜひご登録されてみてはいかがでしょうか (o^_^o)


インタビュアー:佐藤美枝子 
カメラマン:Ami Hirabayashi
許可なく転載・引用することを堅くお断りします。

園田 涼

大学に在学中にプロ活動を開始。ソノダバンドを経て現在は様々なアーティストやドラマ、CMなどへの楽曲提供やサポート、東大から音楽家という一風変わった経歴を活かして新聞、雑誌への執筆など幅広い活動を行う。2016年、新ユニット「三角関係 feat. 三浦拓也」、2017年10月、自身が主宰する「ソノダオーケストラ」を始動。
作曲・編曲を自身の核としつつ、演奏においてもポップスやロックはもちろん、歌謡曲からミュージカル、フルオーケストラとの共演まで、どのジャンルに対しても自分の音を追求しながら演奏活動を続けている。

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