インタビュー Vol.82
 

SALTがクリエイトする6人の奇才シックス・アンリミテッド誕生の瞬間を!!

塩谷 哲[Satoru Shionoya](Six Unlimited 音楽監督)

 

 
Six Unlimited(シックス・アンリミテッド)を立ち上げたきっかけ

それぞれのミュージシャンとは普段から交流があって、例えば、東儀さんとも古澤さんとも、それぞれ2人でDUOのコンサートをやったり、オーケストラで共演する機会があったり、とてもリスペクトしているミュージシャンです。以前《TFC》として演奏活動をされていたアコーディオンのcobaさんと、東儀さん、古澤さんが同い歳なんですが、5年ほどツアーをやった後、活動を一旦休止されることになったんですね。そこで僕に声をかけていただいて、東儀さん、古澤さんと僕の3人が中心となったユニットのコンサートを制作したいと相談を受けました。東儀さんのように雅楽で今のように素晴らしい活躍をされている方を僕は知りませんし、古澤さんもクラシック出身ですが、音楽の垣根を超えて、普段はジプシーのように自然体で、本当に“One and Only”な活躍をされている大先輩で、とても刺激を受けています。僕も色んなジャンルの音楽を経験してきた事もあって、みんなそれぞれバックボーンがありながら、それらをミックスしてクリエイティビティを追求することが単純に面白そうだなと思ったのがまずきっかけです。
今年、このコロナ自粛の時期に「世界がオンラインで繋がった」という印象を強くしています。例えば、小曽根真さんが毎日連続で配信ライブを53日間もやり続けたことは凄いですよね。毎日8,000人近くの人たちが、時差を超えて世界中から観に来ていました。アメリカが朝でヨーロッパなら昼とか。最終日にオーチャードホールで演奏されたライブは16,000人くらいが視聴していた。これはとても凄いことだと思いますよね。今はこの状況の中、ステージでは演奏できないからミュージシャンとしては凄く鬱積したものがあって、でも音楽家の営みとしてやっぱりライブで発信したいという思いもあるわけで、その音楽を期待してくれているお客さんとの関係性がより明確になってきた時、53日間一日も休まず配信ライブをされた小曽根さんに、僕は感動しました。
それで、今回は色んなバックボーンを持った6人が一堂に会して共感できる部分を、ひとつの音楽として膨らませていくこと自体が意味のあることだと思ったんです。でもそれを実現していくことは大変なことですね。

 

凄腕のリーダーが人集まってのバンドですから、皆さんの見せ場を作ることの面白さと大変さはいかがでしょうか

一人一人お互いに違う世界を知るという意味では、異文化の交流みたいに音楽的なぶつかり合いもあるし、だからこそまた面白いと思いますね。先日初めて全員で音合わせをして、バンバン意見が出て、最初はどうなっちゃうんだろう…と不安もありましたけど、それを超える期待もあるし、実際に合わせてみて凄く刺激になりましたね。
僕が常日頃思っているのは「楽器じゃない!人なんだ!」と。僕は、例えばドラムやベースがいないとか、変則的な編成でコンサートをよくやったりするのですが、やってみると面白いし、どんな編成でも大丈夫なんですよ。何故なら、その人が僕と共演することに面白いと思ってもらうことで、どうやってその人の魅力を僕が引き出せるのか、そしてどういう気持ちで僕に挑んでくれるかということが大事だからです。
ある誰かが際立って格好いいとかではなく、この6人だからこそ感じられる何かを創りたいという気持ちでワクワクしていますね(笑)。そして、それぞれのファンの人たちが自分のお目当てのアーティストだけを見るのではなくて、6人の表現する個性を見て、「あ!こんな人もいるんだ、あんな人もいたんだ!」と初めて受ける感動を持ち帰ってもらえたら嬉しいです。どこにもない世界観をお聴かせできるようにしたいですね。

 

3曲のリハーサル映像を拝見させていただきました。東儀さんの笙しょう)と篳篥(ひちりき)が格調高く、荘厳な美しさを奏でるメロデイーから情景が浮かび上がってくるようでした。

いや〜、あの時が初めてのリハーサルで、しかもみんな初見で演奏しているので、音源資料用としてためらいながら映像を収録したって感じですね。だからあれは全然未完成で、これから更にブラッシュアップしていきますよ。それぞれの音楽性が発揮できたという点では、色んな曲に対して共感できる手応えはありました。これからどんどんアイデアを入れていって、作品として完成度の高いものになる自信は見えてきています。
 

塩谷さんからご覧になられた、一人一人のミュージシャンの魅力をご紹介していただけますか

東儀秀樹さん(雅楽)は、雅楽から来て今回のユニットに参加すること自体が異端と言いましょうか、一見自由奔放そうに見えますが、凄く真摯で真面目なかたで稀有な存在です。篳篥という楽器は小さくて音域も広くないんですよね。それでピッチをほぼ唇で調節しているそうで、演奏すること自体とても難しいのですが、そのうえ西洋音楽を演奏するなんてことは本当に大変なことなんですよね。あまりにも上手すぎてその凄さが解り難いのが勿体無いですよね(笑)。東儀さんはピアノも上手いし、アドリブもやりますし、元々持っているキャパシティが広くて、懐が深い方です。
 
古澤 巖さん(ヴァイオリン)は、クラシックのソリストとして実力がありながら、世界中を周るジプシーのようなかたです(笑)。どこに行っても楽器さえあれば一人で生きていけるような人。世界的なヴァイオリニストがひょんな路地裏で弾いているような感覚です。「あそこでヴァイオリン弾いているあの人、実は凄い人なんだよ!」(笑)っていう感じで、そのくらいラフなかたですね。
古澤さんは音楽の捉え方が独特なんです。僕が経験してきたことと全然違うので、クラシックのリズムの取り方や呼吸の仕方を演奏によって教わってきましたね。本当に凄い刺激をいつも沢山いただくのですが、一言で言えば“謎のヴァイオリニスト”です(笑)
 
大儀見元さん(パーカッション)は、学生時代にあるセッションで出会って、その時に丁度、「オルケスタ・デ・ラ・ルス」(以下、デラルス)のピアニストを探していて誘われて入っちゃったんですね(笑)。彼に出会い、デラルスに10年間在籍して、ラテン音楽を知ることができて、世界中を演奏旅行で周りながら沢山の経験をさせてもらいました。国境を超えたエンターテインメントの世界の素晴らしさを体感できる喜びをリアルに感じましたね。例えば、前座で地元のバンドが凄い演奏しているのに、その後に僕らが出て行って演奏するなんてできないよ〜!って毎回思っていたんです。生まれた時から身に付けてきたリズム感とか音楽に親しんできた人たちの強さとかを、日本人の僕らが超えることなんかできないと。僕らの出番になって、演奏すればすごく盛り上がってくれてビックリするんですが、でも心の中では「前座で演奏してくれた地元のバンドの方が絶対にいいだろう!」って思っていたわけです。でも彼らは僕たちの演奏をすごく評価してくれました。目の前で繰り広げられている音楽を聴いて、人種とか一切関係なく純粋に「いいな!」って思えるものに称賛を贈る。そういう感覚を持っている地元の人たちに本当に救われました。
それまで、僕の中にはJAZZもラテンもクラシックも全部ホンモノじゃない、という日本人としてのコンプレックスがどうしても心の底にあったんですね。JAZZなら黒人に生まれたかったとか、クラシックならヨーロッパに住んだこともないのに…みたいな自信の無さのような気持ちでしょうか。そんな自分自身のコンプレックスに押し潰されそうになった時期もありました。でもデラルスをやっていて、僕らを観にお金を払って来てくれているファンからは、「君たちの音楽は新しいしオリエンタルな感じが素晴らしい!僕らには出来ない!」と言われたんですよ。別にオリエンタルなアレンジをしている訳でも無いのですが、僕らの演奏にオリジナリティがあって価値があると認めてもらえたことで少しコンプレックスが解けて、自分がJAZZ、ラテン、クラシックが好きな日本人としてのアイディンティティを見出せた気がしましたね。
穐吉敏子さん、渡辺貞夫さんなど、パイオニア世代の大先輩のミュージシャンたちは想像を絶する葛藤があったと思うので、改めて強いリスペクトを感じますね。先輩方が頑張って来られたおかげで、今僕らがJAZZを演奏できている。そのことに感謝しかないです。そして、僕はデラルスでラテン音楽をやっていても、そういう葛藤は実際に海外で体験しないと実感できなかったし、それを糧に頑張れたんだと思います。結局、大儀見元に出会いラテン音楽の本場に飛び込むことで、自分自身のミュージシャンとしてのアイデンティティを見出すことができた。そういう意味でキーパーソンだ、と言いたかったのです。

 
井上陽介さん(ベース)は、僕が学生時代、まだデラルスに入る前にJAZZクラブなどでよく一緒に演奏していたんですが、その後、彼はニューヨークで長いこと活躍されていました。それ自体がまず凄いことですよね。帰国後は僕のトリオにも参加してもらっています。やはりニューヨークでの苦労や経験を生かされて、自分自身と向き合うことをどれだけしてきたかということがその人の音楽の大きさに繋がっているんだと思いますね。
 
小沼ようすけさん( ギター)は、数年前に暫くぶりに会ったら、まるでサーファーになっちゃっていてビックリしました(笑)。彼自身の音楽も波に乗っている感じです。波っていうのはひとつとして同じ波は来ないでしょ、だから来た波の状況に合わせて自分が変化していかないと対応できないということと、何か音楽が繋がっている気がするんですよね。でもしっかりしないと波に呑まれてしまう。波に対するアプローチの仕方を瞬間瞬間に自分の表現をしていくというか、自然をモチーフにして、彼の大きな世界観を感じますね。
この人は焦るということが無いんじゃないかと思ってしまいます。いつも自然体で、脱力しまくっている感じがして、話していても何言ってるんだか全然わかんないんだけど(笑)、気持ちは伝わるんですよ。とても不思議な人です。自然の営みの一部としてのこの人が存在している、みたいな稀有な存在感を持っているミュージシャンですし、僕は全幅の信頼を置いています。

メンバーの6人に年齢差はありますが、それはあまり感じなくて、皆がそれぞれをリスペクトしながら、自然と音楽だけで会話できる人たち。そして皆さん謙虚で素直で、そして自分より音楽が大事な人たちのように感じますね。どのアーティストを見ても、自分には絶対にできない、自分には無い感覚をいっぱい持っている人たちだから、僕自身が刺激をもらって成長させてもらっている、ありがたい存在です。とにかく、サマージャズが僕ら6人のSix Unlimitedの火花が散る初めてのステージで、いったいどんなことが起こるのか、今の僕らにもまだ分からないので、楽しみとワクワクとドキドキが入り混じった気持ちでいますね。
 

オリジナルは何曲くらいですか

いっぱい作りたいですね、毎日1曲ずつ作る気持ちで頑張ります。でもメンバーそれぞれが抱えてきた音楽的ルーツも知りたいので、みんなの曲も入れたいですね。それがSix Unlimitedとして演奏した時にどうなるのか、興味深いです。

 

塩谷さんの音楽人生で影響を受けた人は

僕には音楽的キーパーソンが3人いて、まず大儀見元、そして学生時代に出会ったヴァイオリンの金子飛鳥さんは凄いです。そして、なんと言っても小曽根真さんですね、小曽根さんには音楽家として生きていく覚悟というのを教えてもらいましたね。小曽根さんご自身も言っておられますが、紆余曲折の時期もあったそうで、そういう苦しい時代に自分が音楽と向き合った時に「どう生きるか」みたいなところが結局は音に出てしまうわけですね。では聖人君子であるべきかというとそんなことではなく、自分のやっている音楽に覚悟と責任が持てるか、テクニック的なことも大事ですが、テクニックはその人の思いを伝えるために必要なものであると思うし、音楽家としてもそうですが、人間としても大きくて尊敬しています。
 

クラシックのオーケストラとの共演やJ-popシンガーとの共演など、幅広いご活躍をされていますが、譜面通りに弾く音楽とインプロヴィゼーションで弾く音楽の難しさと楽しさの違いは

N響とやった時は大変でしたね、ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』や、チック・コリアの『ラ・フィエスタ』や、自作もやらせていただいたのですが、やはり作曲家がいて楽譜を残したということは、自分も作曲をする手前、楽譜の大切さはよく理解できるので、それをむやみに変えちゃいけないなとは思うんです。ただ、例えば、ガーシュウィンが「ここは自由に弾いてもいいよ!」って言ってくれているようなところも確かにあると感じます。それをモーツァルトでも自分のモノにしてしまう小曽根真さんは凄いと思うんですね。そういう“自己流”は作曲家への冒涜とは思えないんですよ。きっとモーツァルトも小曽根さんの演奏を聴いたら、腹抱えて面白がって「ブラボー!!」って絶対に言うよねっていうような素晴らしい演奏をされるんですよね。その音楽を理解した上でそれをユーモアに変えてしまうという“礼儀”をわきまえていると思います。ちゃんと礼儀正しく「お邪魔します」と挨拶をして、正面玄関から入って行って演奏するという謙虚さと凄さ。今までのJAZZミュージシャンがクラシック音楽に接することとはちょっと違うんですよね。だからその誠実さと人間的なスケールの大きさに感動しちゃうんですよね。
JAZZの人がクラシックとコミニュケーションを取る形が変わってきたというか、クラシックとの関わり方が良い意味で広がっていくような気がしますね。僕自身も藝大の作曲科でアカデミズムを勉強したからこそ、クラシックはとても怖くて触れなくなって、「遠慮します」という気持ちでいたのですが、でも小曽根さんは「俺、こんなに面白いの知らなかったわ」って、まるで子供みたいに純真な気持ちでクラシックに挑んで、最初は色んなことを言われながらも十数年も続けていて、その生き様にも感動しますよね。作曲家と彼が繋がって“会話をしている”と感じさせる演奏は、作曲家と演奏家の理想的な関係性だと思います。今はもう即興演奏することが目的では無くなってきているんですね。僕自身もクラシック音楽は敷居が高いと思っていて、「すみません」という気持ちがありましたが、それは裏を返せば、自分に対する逃げだなと思いましたね。

 

塩谷さんを目指して頑張っている人たちは沢山いますが一言アドバイスをするなら

とにかく自分の中にある音楽を信じること、ですかね。その音楽そのものを少しずつ育てていく。それはあなた独自の、誰にも奪うことの出来ない宝物であり、大切な「生きる為の礎」になる筈です。例え音楽家にならなくとも、です。
 

先日、絢香さんのオンライン・ライブを視聴させていただきました。手応えはいかがでしたか。

絢香さんも僕自身も初めての経験で、色々とやりにくかったところはありますが、「ジャーン!!」と演奏しても拍手が聞こえないし、演奏後もシーンとしている感じがいつもとは違うし、あとは人に見られているのかいないのかがよく分からない…(笑)。でも一方で、妙に充実感がありました。沢山の人がリアルタイムでチャットで反応しているのが分かって、その熱気を感じることができたんです。新しい音楽の発信の形、その可能性を実感できて楽しかったですね。
 

サマージャズを待ち望んでいるファンに一言メッセージをお願いします。

僕にとってもジャズ・フェスは久しぶりなんです。しかもまだ結成したばかりのSix Unlimitedの最初のステージです。強烈な個性を持ったメンバー全員でリアリティのあるステージをお届けしたいと思っていますので、初モノのSix Unlimitedの演奏をリアルに目撃していただきたいという気持ちでいっぱいです。
当日会場に来られないかたはオンライン配信でも視聴できますので、ぜひ、大勢の皆さんに楽しんでいただきたいと願っています。
 

SALTさんの愛称で親しまれ、今や音楽業界でその才能を発揮させフル稼働中の塩谷哲さん。4月以降の自粛期間中にも沢山の仕事に追われる日々だったとのこと。それもそのはず、今回とんでもないユニットを結成してその楽曲作りや、人気アーティストの配信ライブ参加やテレビ番組の制作のための楽曲作りなど、スケジュールに載っていないお仕事の方がお忙しいのではないかと思うほど。とにかくピュアなお人柄で人間愛と音楽愛に満ち溢れ、言葉がどんどん溢れ出てくるという印象でした。特に小曽根真さん、大儀見元さんのことを語る時の瞳は半端なく輝きを増して、男が男に惚れる、それは音楽家としてのリスペクトであり、生き様だったり、素敵な関係性を築き上げて、今のミュージックシーンを牽引していらっしゃる実力者なのだと改めて実感いたしました。
まさに類を見ない最強メンバー!知的財産的ユニット《Six Unlimited》誕生の瞬間をライブで見られる初お披露目がサマージャズです!!
そして、昨年、日本レコード大賞企画賞を受賞して大ブレイクした森口博子さんの『GUNDAM SONG COVERS』にも参加され、今年もその第2弾を収録したばかり。サマージャズ当日はどんなサプライズがあるのか〜?? 楽しみです!!


インタビュアー:佐藤美枝子
協力:株式会社NHKプロモーション

許可なく転載・引用することを堅くお断りします。

塩谷 哲 Satoru Shionoya

東京藝術大学作曲科出身。 在学中より10年に渡りオルケスタ・デ・ラ・ルスのピアニストとして活動(93年国連平和賞受賞、95年米グラミー賞ノミネート)、並行してソロアーティストとして現在まで12枚のオリジナルアルバムを発表する。 自身のグループの他、小曽根真(p)との共演、佐藤竹善(vo)との”SALT & SUGAR”や上妻宏光(三味線)との”AGA-SHIO”の活動、オーケストラとの共演等、活動のジャンル・形態は多岐に渡る。 近年は絢香のサウンドプロデュースに参加。メディアではNHK「名曲アルバム」にオーケストラ・アレンジを提供する他、NHK Eテレ『趣味Do楽“塩谷哲のリズムでピアノ”』(2014年)、フジテレビ系ドラマ『無痛-診える眼-』(2015年)、現在はNHK Eテレ音楽パペットバラエティー番組『コレナンデ商会』(2016年~)の音楽を担当している。 国立音楽大学ジャズ専修准教授。

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