インタビュー Vol.76

フリーリード女子トーク!

山下伶|巡〜MeguRee〜|南川朱生

 

フリーリード楽器に目覚めたきっかけ

Akeo:高校生の頃、文化祭バンドでキーボードを担当した時に、キース・エマーソンみたいに楽器をいっぱい並べたかったんですけど、高校生でお金が無くて沢山楽器を揃えることができないじゃないですか。なので鍵盤ハーモニカをキーボードの上に置いて一緒に演奏したのが鍵盤ハーモニカとのお付き合いの始まりでした。
 

 
Meme:私はピアソラが好きで、最初はバンドネオンをやってみたかったんですけど、すぐには楽器が手に入らなくて。だから同じ蛇腹楽器のアコーディオン屋さんに行ってみたんです。そうしたら、すごく色んな音色が出ることがわかってアコーディオンの魅力を知りました。自分の性格的に、難しい方が燃えるタイプなので、慣れた鍵盤式ではなくてボタン式のアコーディオンを選びました。
 

 
Ree:私はとにかく歩きたかったんです(笑)。ピアノってその場から動けないじゃないですか。それでアコーディオンが気になっていてチャレンジしてみました。小学生の頃にも演奏する機会は無かったので、アコーディオンに触ったのはそれが初めてですね。
 

 
Rei:私はフルート専攻で音大を卒業してから、歌伴のバックバンドで演奏するアルバイトをしていたんですけど、その時たまたまお客さんから映画音楽の『ひまわり』を吹いてくれとリクエストされたんですね。でも私がその曲を知らなくてYouTubeで調べたら、その『ひまわり』をクロマチックハーモニカで吹いている動画に偶然巡り会ったんです。「こんな素敵な音がする楽器があるんだ!」って感動しちゃって、その演奏者の徳永先生のことを調べたら大阪に居るっていうので、すぐにコンタクトをとって、その一週間後には大阪に行っていましたね。それがきっかけです。
 

 
Akeo:すごい行動力ですね!フルートは吹く楽器ですが、ハーモニカの吸って音を出すことに抵抗はなかったですか?
 
Rei:ありましたありました!吹く「ド・ミ・ソ」は大きい音が出るのに、吸う「レ・ファ・ラ・シ」の音はすごく小さくなっちゃって...。だから、すごく新感覚の楽器でした!
 

 

プロになろうと決意した瞬間

Rei:私は、ハーモニカを習うようになってから半年後に、コンクールにチャレンジしたんですけど、そこで2位になれたんですね。それで、次の年には1位を獲るぞ!って頑張ったんですけど、また2位で...。その次の年「これでダメだったら諦めよう、1位を獲れたらもっと頑張ってみよう」と決めて臨んだ3年目に、ついに1位になることができて、それで「私はハーモニカで行くんだ!」と決めました。
 
Ree:私は、「なんて素敵な楽器なんだろう」と思いながらアコーディオンにハマっていったんですけど、ある時cobaさん(世界的アコーディオン奏者)が主催する蛇腹楽器の祭典を観に行ったんですね。アコーディオンってどんな人たちが演奏してるんだろうと思って。ステージには色々な蛇腹楽器のプロの方たちが次から次へと出てくるんですが、アコーディオンの表現力の幅や、格好良さに衝撃を受けました。そこで、「私はこのステージに立つんだ!」と決意したのがプロになろうと思ったきっかけです。
 
Meme:私はただハマって、「好きだからこれで行こう」という感じですね。アコーディオンの魅力をいろんな人に伝えられたらいいな、という気持ちもありました。
 
Ree:もともと2人でピアノ・デュオをやっていました。それぞれが全然違う理由でアコーディオンを始めたんですけど、「アコーディオンの講習会に一緒に行ってみよう」って誘ったのがきっかけでさらに仲良くなっていって、アコーディオンでも一緒にやるようになりました。Memeちゃんが弾いている姿を見て刺激を受けながら勉強してきましたね。ユニットを組んだことは本当に大きな転機になりました。アコーディオンって、1つの蛇腹で右手の旋律と左手の伴奏をまかなっているので、左右の音量バランス調節が難しいんですね。左手の音量を大きくすると空気が左手側ばかりに吸われて右手が全然聞こえなくなっちゃったりっていうことが多々あるのですが、2人だとそういう弱点を補い合いながら効率よくできるんです。伴奏に徹する所とメロディに徹する所を分けられるので、表現の幅も広がりました。
 

 
Akeo:私はもともと結婚情報誌『ゼクシィ』や求人情報誌の『タウンワーク』で、会社員としてWEBのデータ分析の仕事をしていたんですけど、29歳の時に鍵盤ハーモニカの研究やイベントを実施する「鍵盤ハーモニカ研究所」というものを立ち上げて事業化したんです。しばらく会社員を続けながら並行してやっていたんですけど、2018年の6月に会社を辞めて、なし崩し的にこっちの道一本でやることになりました。それがプロになったということですかね。
 
Rei:自分で事業所を立ち上げちゃうなんて凄い!格好いい!これまでたくさんの鍵盤ハーモニカ奏者に出会ってきましたけど、朱生さんほどフリーリードに詳しくて、鍵ハモ愛にあふれている方は他に知らないです!
 

フリーリード楽器あるある

Rei:ハーモニカはどうしても出音が小さいので、ステージでは音響ありきなんですね。他の楽器のレベルに合わせると高音がキンキンしちゃうので、いつも音響で調整してもらっています。
 
Akeo:それは鍵盤ハーモニカも一緒ですね。やっぱりあれはフリーリードならではの悩みなんじゃないかと(笑)
 
Ree:アコーディオンもマイクの悩みは尽きないですね。アコーディオンは右側と左側、両側から音が出るんですけど、マイクのバランスをとるのが難しいです。
 
Akeo:フリーリードは音程もデリケートですよね。演奏しているうちに水分が溜まって音程が下がっちゃうことがあるので、私はピッチを心なしか高めにセットしておいて、同じ機種の予備を持っていきます。2曲やったらチェンジとか。
 
Ree:アコーディオンもピッチの調整はできるんですが、自分ではできないですね。やっぱり調律師さんにお願いしています。本番中におかしくなっちゃったらアウトです。
 

 
Meme:つい先日なんですけど、名古屋でライブをしたときに、前日にアコーディオン2人とドラムの組み合わせで、PAを通さない生音での演奏だったので、目一杯大きな音を出して頑張ってやってたんですね。それで次の日のライブの時に、ある音だけ音程がどんどん下がっていっちゃうトラブルがあったんです。よく使う音だったので、大事なところで笑えるくらいどんどん音程が下がって行っちゃって。どんなに頑張っても拍子抜けしちゃうメロディーになっちゃうし、自分で直せないから大変でした。ライブが終わってから名古屋の楽器屋さんに緊急ヘルプ要請して直してもらえて、その翌日からは大丈夫でしたが。金属疲労でリードが折れたり曲がったりするとそうなっちゃうんですよね。
 
Rei:私も同じようなことがあって、突然特定の音だけが半音近く下がっちゃう症状が出ちゃったことがあります。葉加瀬太郎さんの『情熱大陸』を演奏していたのですが、何とも言えないマヌケなメロディーになっちゃって。「私のせいじゃないのに~!」って思いながら、泣きそうになって演奏していました(苦笑)。
 
Akeo:あとはフリーリード楽器は、過剰なベンディングをかけるとリードに負荷がかかって、細いところが折れたり割れたりとかすることがあるんですよね。
 

 
Rei:冬場は寒いところから急に暖かい部屋に移動した時なんかに、結露でバルブが貼り付いてしまって音が出なくなることもあるので、気温にも敏感になりますよね。
 
Ree:アコーディオンの場合は、冬場より夏場の方がしんどいです。内部のパーツがロウで固定されているんですね。だから、高音になるとロウが溶けちゃうので、真夏の炎天下で車の中に楽器を置きっ放しとかは絶対できないですね。だから移動が大変です。ちょっとコンビニ寄るとか、ちょっとランチしたりとか、そういう時に毎回車から出して持っていかないといけないから大変ですね。軽かったらまだいいのですけど、結構重いんで(苦笑)。演奏中も、体と楽器を密着させてますから蒸れて汗びっしょりになってます。夏はとにかく大変です!
 

今の楽器をやっていって良かったこと

Rei:やっぱり、今のこの環境全てがハーモニカのおかげです。憧れの方達と一緒に共演できたりとか、テレビやラジオ、雑誌でも採り上げていただいたりしているのは、やっぱりハーモニカだったからだと思うんですよね。
 

 
Meme:ピアノを演奏する時と比べると、お客さんの興味の目が全く違うってことですね。イベントで演奏させていただく時も、アコーディオンだとやっぱり珍しいので、多くのお客さんが足を止めてくれるんです。演奏が終わってからも、「どうやって音が鳴ってるの?」「このボタンは何?」とかって、みなさん興味津々です。そうやって、すごく興味を持ってくれる人がたくさんいるっていうことが嬉しいです。
 
Akeo:私の場合はちょっと特殊ですが、世界の各国に鍵盤ハーモニカのオタク仲間ができたっていうのが大きな変化です。私が発信している活動があまりにオタク過ぎて、色んな国の人から問い合わせが来るんですよ。あれについて教えて欲しいとか、レッスン受けたいとか、コラボしたいとか。鍵盤ハーモニカのおかげで世界中の人と繋がることができるなんて、普通に生活していたらありえなかったようなことが起こっていて、やっぱり「オタクで良かったな」って思いますね(笑)
 

 

従来のイメージを吹き飛ばして

Rei:ハーモニカってやっぱり先入観を持たれていて、「ハーモニカのコンサートやります!」って告知しても「おじいちゃんが河原で『ふるさと』とか吹いてる、あれでしょ?」っていうようなイメージが付き過ぎちゃってて、コンサートに足を運んでもらうまでにハードルがありますよね。私だけじゃなく、もっと凄い演奏をしているハーモニカのプレイヤーもたくさんいるので、従来のイメージを吹き飛ばしていきたいですね。
 
Ree:アコーディオンだけで合奏することはよくありますが、他のフリーリード楽器とのコラボって経験がないので、今回のコンサートがどんな感じになるのか、とっても楽しみです!
 
Meme:はい、とても楽しみ!
 
Akeo:鍵盤ハーモニカは、教育楽器として誰もが小学校で触ったことがあると思いますが、誰も見たことのないような新しい奏法も日々開発していっていますので、この楽器に対するイメージも覆していきたいです!
 

 

※本記事は、2019年12月24日に開催された《フリーリードのミューズたちが贈る音楽ファンタジー“くるみ割り人形”》の会場にて配布されたパンフレットに掲載した内容を拡充して掲載いたしました。

 

聞き手:関口彰広
カメラマン:Nayuta Miyahara
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