インタビュー Vol.22
瑞々しいエネルギーでオーディエンスをとりこにする 桑原あい


 
●7歳上の姉の桑原ゆうさんは現代音楽の作曲家。4歳上の姉、桑原まこさんは映画音楽や舞台、CM音楽を手がける作曲家。二人のお姉さんがとても厳しいとのこと。桑原三姉妹の末っ子があいさん。彗星のごとく現われたという表現がぴったりの桑原あいさんですが、そもそもジャズとの出会いは何がきっかけだったのですか。
もともとエレクトーンをやっていたのですが、ある時コンクールに出ることになりまして、その時の担当の先生が『Bottom Lines Super Bass Collection』というアルバムに入っているリー・リトナー&ジェントル・ソウツの「キャプテン・フィンガーズ」を聴かせてくれて、そのベーシストがアンソニー・ジャクソンだったんです。それを聴いて、「このベースはすごい!」と思い、そこからベースが凄く好きになりました。それからコンクールでもジャズやフュージョンを弾くようになって、でも作曲はクラシックもやる、ということを小学校4年生から平行してやってました。
 
 
●そこからどのようにしてジャズへと変更していったのでしょうか?
聴いていたCDはアコースティックなものが好きで、王道ですがオスカー・ピーターソンだったり、ビル・エバンスだったり、色々と聴いていくうちに、このままではだめだ、と思って、エレクトーンからピアノに転向し、中学2年生からクラシックのピアノの先生に習うようになり、エレクトーンは一切弾かなくなりました。ひたすらピアノを弾きましたね。それで、ドビュッシーやリストとかの曲も弾けるようになって、そこからようやくジャズ・ピアノへといきました。でも、アドリブを弾くこととか、リズムに乗るなどは、エレクトーン時代に習っていたので、むしろ楽譜通りに弾くよりは、アドリブで弾くほうが好きではあったので、躊躇することなくジャズピアノをできるようになりましたね。でもボイシングとかタッチとかは辛かったです。
 
 
●クラシックをやっていた方は、コードでの演奏は難しいですよね。
そうですね。そこで蟻正行義(ユキアリマサ)先生に教えてもらいたくて、洗足学園高等学校に入りました。それで、初めてのレッスンのときに、いきなり「何か弾いて」と言われて(笑)。どうしようと思って、たまたま自分が書いた曲の譜面を持っていたので、それを弾いたのですが、その時の譜面は、ボイシングやアドリブまで全部書いてあるんですよ(笑)。コードネームではなくて、和音のつかみ方も。先生に「こんな細かく書いたの?」と言われました。書き方がわからなかったので。。。そこからコードネームを学びました。そして、高校を卒業して、いまも一緒に活動を続けている、ベーシストの森田悠介君に出会いまして、私の譜面を渡したのですけど、そのときも譜面がカッチカチで、自分用に手直ししてもらったら、6枚ぐらいあったのが2枚ぐらいにキュッとまとまっていました。一緒に演奏してくれるベーシストやドラマーが演奏しやすい譜面づくりの大切さを知りましたね。
 
●そういった基礎ができたから今があるということですね。そういった恩師や森田君に出会って大きな財産になったわけですね。まず何かを突き進んでいくのって出会いって重要ですよね。いまは楽しくってしょうがないんじゃないですか?
楽しいですね。全て楽しいです。恩師と森田君とは本当に大きな出会いでした。



●一日何時間ぐらい弾いているのですか?
練習もしたくない日とか、音も聞きたくないという日もあるので、その時々ですが、弾く時は何時間でも弾きますし、弾かない日は全く弾かないです。あと、作曲するときはピアノを弾かないですね。すべて頭の中でつくります。とはいえ、ピアノがある部屋にいます(笑)。そして3~5日ぐらいあたまの中に残ってくれるキャラクターの強いコ(フレーズ)を紙に書いて、それからピアノで弾いてみる。ずーとあたまのなかで考えています。作曲って大変なので煮詰まるとつらくなりますね。イライラしてしょうがない。

 
●桑原三姉妹と言われてるほどの音楽一家だから、逃げ場がないですよね。
きっかけというか、なんで音楽をやっているのかわからないくらいなので、辞め方もわからないというか(笑)。自然とやっているので。音楽が自分からなくなる意味がわからない。

 
●困ったりしたときは、お姉さんに相談したりしますか?
いまでも相談してます。一番信頼しています。

 
●ライバル心というのはないですか?
小さいころはよくぶつかり合っていましたけど、もう今はみんな大人なので(笑)。みんなジャンルが違うので、私はわからない部分があるけど、音楽はすべてに通じていますし。構成とかそういうことはジャズでも大事だと思うので、そういう作曲家としての目線は姉から学びました。鋭い指摘とかはありますね。プレイヤーとしてと、作曲家としてのディレクションをしっかりしていきたいと思っていますね。

 
●お互いのライブに行き来したりしますか?
私のライブに来てくれることもありますし、私も行くこともあります。いまでも来てくれます。みんな仲良しです。



 
●プロのジャズピアニストとして、これからさまざまなことがあると思いますけど、そのモチベーションをキープするには?
他と比較されたり、いろいろ言われたことがあり、泣いたこともありますけど、そういうのは1時間か2時間で取り戻します。

 
●リセットが早いですね!
リセットしてすぐに前に進まないと何もならないから。基本的にはマイナス思考だからこそ、すぐに前に進もうと思うのですよ。東京ジャズに出させていただいたときは、学ぶことがありましたし、Frid Prideのshihoさんや山中千尋さんなど、素敵なミュージシャンの方々とお会いしては「こんな人になりたい」と思うことが最近とても多いです。嫌なこともあるし、楽しいこともあるから、何があっても大丈夫だと思ってます。

 
●メンタル面が強いですよね。
いいえ、弱いんですよ。だから口に出して言うようにしています。

 
●まさに有言実行ですね。
言ったら、やらないといけないから、がんばりますよね(笑)。なにごとも。そうやって生きています。東京ジャズの時も「絶対にでる!」って言い続けていました。10年越しでした!

 
●そうだったのですか!もう泣いちゃってましたもんね!
泣いたのは事故ですから!(笑)テレビにどアップで泣いている人がいるわけですから!

 
●20歳でメジャーデビューということは、もしかしてハービー・ハンコックも21歳のデビューですよね?マイルスの黄金クインテットに加わった時の、トニー・ウィリアムスは18歳でしたよね。若いって何にも勝る武器だと思いますが若いと言われることに対しては?
デビュー当時、19歳のときは「若いねー」とよく言われて、すごく嫌でした。それは、ジャズは年を重ねて深みが増していくというか、そういう意識があったからであって、いまでは、いまできることをやる、という風に考えるようになって、ある意味開き直りではないですけど、そういう風に思うようになりましたね。だからこそいい感じに歳を重ねていきたいと思っています。

 
●私からしたら羨ましいです(笑)。
60歳のときに最高のピアノを弾きたいと思っています(笑)。

 
●三姉妹のトリプルピアノとか?
それは絶対ないですね!“コラボ”なら有り得なくもないかもしれませんが。

 
●そういえば、新聞のインタビュー記事でクラシックのブラームスを弾いているとか。
いまでもクラシックを弾いてます。クラシックも弾いています。やはりピアノの使い方はクラシックが基本ですし、譜読み練習にもなります。本当に難しいですが、ジャズを弾く時とは全然違っておもしろいです。

 
●そして、ミッシェル・ペトルチアーニが大好きなんですよね?
大好きです!学生時代に師匠が「気に入ると思うよ」と教えてくれたのがきっかけで。私が6歳の時に亡くなられているので生で演奏は聴いていませんが、去年パリへ行ったときにミッシェルのお墓に行ってきました。となりのとなりあたりがショパンのお墓でした。四角いシンプルなお墓に手紙を置いてきました。そのとき、急に雨がバーと降ってきて、雨に打たれながらひたすら30分ぐらい泣いていました。お墓なのに、なんか魂を感じましたね。

 
●ミッシェルは手が大きかったけど、あいちゃんは?
えーと、私は手が小さいけどよく開きます。こんな感じですね。(手をみせながら)いつもテーブルでこうやって練習しています。あと、腹筋と背筋も(笑)

 
●いつもとても個性的なファッションでステージがグッと華やかになるのですが、衣装へのこだわりなどはございますか?東京ジャズのあの衣装は?
東京ジャズの衣装は母が作ったのです。帯をスカート状にしたものでした。最年少ということもあったので気合いを入れて。

 
●すごい映えてました!
小さな頃はずっと母の衣装を着て演奏していたんです。でも自然と中学生あたりからはあまり着なくなりました。ですが昨年、サッポロシティ・ジャズと東京ジャズが決まったとき、また母の服を着たくなって。母と一緒に頑張っていると思えるのです。

 
●今年4月に3枚目のアルバム「the window」をリリースされましたが、このタイトルは、心の窓という意味ですか?
前年の動きを自分なりに把握して、自分なりにスタートとして提示したかったので、窓を開ける、というタイトルにしました。

 
●この10曲はどのくらいの期間かかりましたか?
1曲は(昨年の)6月からつくり初めて手直しを3、4回かけましたし、あとは8月に入ってからつくりはじめました。すぐにできた曲もあるし最後の最後まで追い込みをかけた曲もあるし。。。大事なのは、書いたあと、リハーサルでアンサンブルして、一度持ち帰って再度構成を練って作っています。そのプロセスをふまないとレコーディングしたくないですね。

 
●仕事から離れた自分の時ってどういうときなのでしょう?
本です。とにかく文庫本をひたすら読んでます。あとは演劇、ショッピングとかですね。CDを聴いたり、ミュージカル観たりしますけど、やっぱり活字ですね。文字だと作曲のイメージが湧きやすいですね。

 
●すべてが作曲につながっているのですね。どれも独創的ですが、特に「ラブレターズ」が好きでした。これはどなた宛て?(笑)
ペトルチアーニです(笑)。いままで誰かのためにつくるってことができなかったのですけど、今回ふと誰かのために曲を書こうと思える時がありまして、頭に浮かんだのが彼だったのです。根本はペトルチアーニですけど、いろいろな人に向けて複数形にしました(笑)。

 
●CDのタイトルもご自身で?
そうですね。タイトルも大事ですからね。それと私ができる唯一の活字の表現なので(笑)。



 
●今度サマージャズに出ていただくにあたり、ファンのかたにメッセージをお願いします。
はじめて観てくださる方が多いと思いますが、私は私として臨むので、そのままで聴いていただきたいですね。

 
●これからの目標や、チャレンジしてみたいことは?例えば、ビッグバンドとの共演はどうでしょうか?
おもしろいですね!ぜひお願いします!

 
●いきなりですが、楽屋の差し入れは何が好きですか?
パック(ローション)とか、ハーブティーとか、体に良いものとか、湿布とか。そういう実用的なものはうれしいですね(笑)。

 
●お酒はお召し上がりますか?
ぜんぜん飲めないです。ほんとに弱くて。。。ビール少しだけで瞬間的にアガって、急激に落ちる(笑)。みんなお酒飲んでますけど、私はシラフで飲んでいる人よりテンション高くいく、というのを常に思ってます!(笑)

 
●では打ち上げのときはオレンジジュースとか?
ひたすらウーロン茶です!糖分はとらないように。でもテンションは一番高いです(笑)。

 
●そういえば、ツアーのファイナルは白寿ホールだったのですよね。
とても雰囲気が良いですね。「これはホールにしかできない」ということを白寿ホールでやりました。

 
●そのときも泣きました?
もう、よっぽどのことがないともう泣きませんよ(笑)。
読書が好き。ペトルチアーニ大好き。ママ、パパ、お姉ちゃんみんな大好き!!「好き」がいっぱいで、いつも何かにインスパイアされて好奇心に満ち、輝きのオーラで周囲を明るくしてくれるあいちゃん!一目みたら誰もが好きにならずにはいられない、そんな天性を「持ってるひと」。

 
インタビュアー:佐藤美枝子
カメラマン:Koji Ota
 
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2014年8月23日(土)
「第46回サマージャズ」
会場:日比谷公会堂
日本最古の歴史を誇る伝説のサマージャズ!