インタビュー Vol.106
ミュージカルへの情熱と
留学経験で学んだ表現力の多様性が魅力の俳優
木内健人

徳島県のご出身とのこと、ちなみに同じ芸能の世界ではどなたがいらっしゃいますか
大杉漣さん、泉見洋平さん、大塚千弘さんそして妹さんの山下リオさんや元宝塚歌劇団トップスターの瀬戸内美八さんもいらっしゃいます。
ミュージカルにご興味を持たれたきっかけは
子供の頃に母に連れられて初めて観たミュージカルが劇団四季の作品でしたが、何を見たかは全然覚えていないんです。
でもダンスが好きだったので多分、加藤敬二さん演出の「ソング&ダンス55ステップス」ではないかと思います。
とにかく母はミュージカルが大好きで、子供の頃に良く連れて行ってもらっていた記憶があります。
僕自身はミュージカルというよりも1950年代くらいに活躍したフレッド・アステアとかジーン・ケリー、 チャールズ・チャップリン、サミー・デイビスJr. などが好きで僕自身のコンサートでも歌ったりしていますが、母の知り合いで昔、東宝さんでミュージカル俳優として活躍されていた方が開いていたミュージカルスクールで、ミュージカルを勉強したというのが最初の出会いというか、きっかけです。そのほかにもTRFのSAMさんのお弟子さんがやっていたダンススタジオもあって、そこで、HIPHOPなどのダンスレッスンを受けたりしていました。僕が今この世界にいるのは母の影響が大きいですね。

それからカナダ留学をされたのですね
そうなんです。母は英語教師で、僕の背中を押してくれて、ミュージカルやダンスとは全く関係なく、語学の勉強のため留学しました。
高校の3年間は真面目に一生懸命、勉強していました。
卒業後はカナダの大学に進もうとは思われなかったのですか
それも勿論考えましたが、カナダの高校は単位制なので大学同様、単位が取れないと卒業できません。19歳までに卒業しないと高校中退にもならず、中学卒業の扱いになるので、単位を取るのに必死でした。入学するのは簡単でも卒業が大変で、カナダの国立大学に入るだけの英語力とか、それを補えるだけの得意とする科目、例えば、数学や物理に僕自身あまり興味が湧かなくて、国語(英語のこと)が難し過ぎて、高校三年生でシェイ
高校三年生でシェイクスピアをやるんです。急に英語で「リア王」を読んでとか言われても 日本語でもシェイクスピアは難しいですし、しかも論文を書いたりとかなかなか大変だったので、大学進学は断念しました。

その後、シェイクスピア作品にはご出演されていらっしゃいますね
「ハムレット」には出演したことがありますが、ほぼオリジナルに近い「ハムレット」でした。あとはコロナ禍の2020年に、シェイクスピア作品を元にした井上ひさしさんの戯曲「天保十二年のシェイクスピア」に桶屋の佐吉役で出演させていただきました。

ストレートプレイもお好きなのですか
お芝居はやってみたいな〜と思っていますし、ミュージカルに固執しているつもりもないので、色々とチャレンジさせてもらっています。

語学も堪能な木内さんですが、敢えてミュージカル俳優になろうと志したのは
僕の自慢のおじいちゃんとひいおじいちゃんがいるのですが、二人とも建築士なんです。ひいおじいちゃんが特に有名で、日本で初めてドイツ建築を建てた人なんです。だから僕も建築士になりたかったんです(笑)学校で建築の授業も受けていたのですが、俳優になろうか、建築士になろうか悩んでいたときに考えたのは、タイムリミットが先にきちゃうのは俳優だな〜と思ったのと、ダンスが好きだったので、ダンスを生かせるものはミュージカルだと思い、教えてもらった「東宝ミュージカルアカデミー」という養成所で様々なレッスンを受けました。
アカデミーは1年間の全日制で、入学するにはオーディションがありました。そこから更に学びたい人にはアドバンスコースがあり、1/3くらいがふるいにかけられます。それに残ることができたので、僕は合計3年くらい通いました。(現在は閉校)

養成所に入るときはオーディションがあったと思いますが、その時に歌われた曲はなんですか
課題曲がありまして、ミュージカル「Les Misérables」よりマリウスが歌った「カフェ・ソング」または、ジャベールの「スターズ」のどちらかを選ばなくてはいけなくて、僕は18歳のときでしたがまだ「Les Misérables」がどういう作品なのか良く理解できていないまま
「スターズ」を歌いました。そうしたら、一次試験は合格して二次審査のときには「カフェソング」を歌わなければならず、それも無事、合格しました。
ダンスが得意な木内さんですがダンスメインの出演作は
僕はアンサンブルからキャリアをスタートさせたので、「ハウ・トゥー・サクシード」や、Tapのミュージカルで「エニシング・ゴーズ」などです。僕が初めて商業演劇と言われる初舞台に出演させていただいたのが、当時「V6」の坂本昌行さんや大和田美帆さん、鈴木綜馬さん、川平慈英さんなどが出演されたミュージカル「マイ・ワン・アンド・オンリー」です。このミュージカルもTapがメインでした。
日本のTapと言えば玉野和紀さんとは共演はされていませんか
ミュージカル「ピーターパン」の主演が唯月ふうかさんの時に僕もヌードラー役で出演させていただき、演出・振付が玉野和紀さんでしたが、玉野さんとの共演はまだしていませんね。
8月のライブイベントの時に仰っていた早くオジサンになりたいとのことですが
年齢よりも大分若く見られるのですが、僕は昔から裏表のある悪役に憧れていて、「エリザベート」に例えるとルキーニとか、トートとか、ルドルフとかフランツなどの役にはあまり興味がないんですよね~
悪役にはすごく意欲が湧いてきて、ミュージカル「クロスロード」この作品もオーディションだったのですが、中川晃教さんが演じる悪魔アムドゥスキアスと契約してしまう孤独な天才ヴァイオリニストのニコロ・パガニーニ役は本当に良い役をいただいたな~と思っています。タイトルにもなっている配役を演じることは僕の夢でしたから、タイトルロールの主役をいただき、これぞ!まさに僕自身がやりたかった作品だなって思いましたし「クロスロード」はミュージカルというより、ストレートプレイに近い、お芝居に歌が入るという感じの作品で演じ甲斐ある役柄だと思いました。こういう役をやりたくて俳優を目指してきたので、すごく嬉しかったです。


帝国劇場が建て替えのため、今年2月にクローズしましたが、
最後の「Les Misérables」でアンジョルラス役を演じられたご感想と
アンジョルラス役が決まった時の印象は
お稽古を入れるとほぼ1年くらい濃密な稽古の時間をカンパニーと一緒に過ごすわけですが、僕は2回目の出演でしたので、稽古期間はもっと短くて、ギリギリまで、ミュージカル「ファンレター」に出演して、休演日には「Les Misérables」の歌のお稽古に行ったりしていました。
アンジョルラス役が決まった時は勿論よく覚えていますが、今、冷静に考えてみるとオーディションをよく受けようと思ったな~と思います。実は今だから言いますが 、18歳とか19歳くらいの時にマリウスを2回受けて、更に28歳くらいの時にも3回目を受けてこれもダメだったんです。これはもう僕には無理だなって「Les Misérables」は一旦諦めたのですが、同じ事務所の先輩の吉野圭吾さんがアンジョルラス役をやられていて、吉野さんから、ダメもとでも受けてみればいいじゃないかと助言してもらい、受けたら合格しちゃったんです!受かった瞬間、嬉しいことは勿論ですが、やばいな~ 僕にできるのかなっていう不安の方が大きかったですね。プレッシャーと責任の重さを感じました。

帝国劇場ラストの「Les Misérables」のキャストが大きく変わったことへの驚きを感じましたが
海外の演出家がやっているので、帝国劇場が終わることはあまり重要視していないのかもしれませんね。
多分、世界の中で、日本がいちばん「Les Misérables」が盛り上がっている国なんだと思います。イギリスだと、割と観光地化されているというようなことも聞いていますが、日本はとても「Les Misérables」を大切にしてくれて、しかも伝統ある素晴らしい劇場で上演してくれるということで、評価は高いのだと思います。でもキャスティングに関しては海外の演出家からしたら、帝国劇場が終わることとは関係ないのではないかと思います。
1日の中で幸せを実感する時はどんな時ですか
仕事を頑張ってお風呂に入る時とか、筋トレを頑張ったあとですかね~(笑)


今日のお芝居いい感じで終えたな〜とかは
あまり良い感じで終わった実感がなくて、もっと出来たはずなのに~ って反省することが多いですね。
僕が初めて「Les Misérables」に出演した2021年はコロナ禍で穴を開けないで上演することが出来ず、福岡公演は半分中止、大阪公演は全公演中止となり、本当に辛い経験もしてきたので、今回2024年12月の東京公演初日から2025年6月の高崎公演の大千穐楽まで一回も穴を開けずに上演できたことへの安堵と喜びに、これこそ幸せを実感しています!

最後にGift of Classics &musicalsにお越しくださるファンの皆さまへメッセージをお願いします
普段から上原理生さん、小野田龍之介さん、水 夏希さんとは親しくさせていただいていますが、僕が今回初めて共演させていただく、LENさんはどんな歌を歌われるのか楽しみですね。今までそんなにクラシック音楽には触れてこなかったので、僕自身もお客様と一緒にクラシックも楽しみたいと思っています。
皆さんが大好きな曲ばかり歌う予定ですので、ヒューリックホール東京でお待ちしております。
木内健人さんはアンサンブルからキャリアをスタートさせたとのこと、私も木内さんの出演作品を遡ると沢山観賞させていただき、改めて過去のパンフレットを紐解くと「えっ!ここにも!ここにも!!出演されていたんだ!」という作品が数多くありました。そしてついに2024年4月より「クロスロード 〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ〜」の主役を射止め、存在感を発揮する演技と歌声は感動的でした。同年12月よりミュージカル「Les Misérables」(2024年〜2025年)帝国劇場クロージング公演ではアンジョルラスを演じ、大千穐楽のカーテンコールでのご挨拶では感極まり涙ぐむシーンも!
海外留学で学んだ英語力で、今後、海外作品などにもチャレンジしてシリアスからコメディまで幅広い演技で活躍していく俳優さんだと信じています。
更には急きょ発表された、9月20日プレビュー公演からスタートするミュージカル 「SPY×FAMILY」のロイド・フォージャー役が決まったとのこと。人気作品で主要キャラクターを務められるということは、俳優としての信頼度が高く、製作側が “できる人材” と見ている証拠の表れだと思います。
今後の主演キャリアを築く段階へとミュージカル業界での“ 顔 ” としてさらなるステージに進まれることを期待しています。
そして、今回は、歴代アンジョルラス役の上原理生さん、小野田龍之介さん、木内健人さんのお三方が勢揃いします。何かが起こらないはずはない。一度きりの共演にご期待ください!
撮影:間野真由美
取材協力:ミドルウッド
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木内健人
徳島県出身。カナダの高校を卒業後、 東宝ミュージカル・アカデミーアドバンスコースを経て、ミュージカルを中心に活動中。正統派のミュージカル俳優として着実にキャリアを重ねている。 近年の主な出演作に、『Under The Mushroom Shade』、『レ・ミゼラブル』(アンジョルラス役)、『ファンレター』、『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』(パガニーニ役)、『The Agent』、『SHINE SHOW!』、『SPY×FAMILY』、『天使にラブソングを~シスター・アクト~』、『盗まれた雷撃~パーシー・ジャクソン ミュージカル~』、『ガイズ&ドールズ』、『夫婦漫才』、『BLUE RAIN』、『天保十二年のシェイクスピア』など。
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